第8回 乗馬のためのアーサナ《筋力強化編②》
乗馬は一見、馬の上に乗っているだけで騎乗者は何もしていないように見えるかもしれませんが、一度でも体験すると、筋力や持久力を必要とする全身運動であることに気付くでしょう。特に騎乗技術の高い人ほど体が動かず、外から見ても何をしているのか分からないということがありますが、動く馬の上でしっかり安定した姿勢を保ちつつ正確な扶助を出すには、その土台となる筋力を備えていなければなりません。
馬に初めて乗った時、もしくは久しぶりに乗った時などにほとんどの人が筋肉痛になった経験があると思います。そして、その筋肉痛が一番顕著に現れるのが太腿の内側にある内転筋!きっと皆さんも身に覚えがあるのではないでしょうか?初めは馬の動きからくる振動に慣れず、自分の体を支えようと脚で馬の体にしがみつくようになってしまいがちですが、力むことなく安定して座れるようになるのが理想的で、そのために必要なのが股関節の柔軟性と太腿の筋力です。太腿の筋力といっても脚で馬体を強く挟むわけではありません。しかし、日常生活の中ではあまり使うことがない部分のため、ある程度の筋力がないと安定した騎座を保てず、安定した騎座が保てないと体が思うように使えず正確な扶助も出せない、というループになってしまいます。
そこで今回は股関節の柔軟性と太腿の筋肉の強化、どちらにも効く『戦士のポーズ2』をご紹介します。下半身の強化とともに全身を活性化させ集中力もアップできる、名前通りの力強いポーズです。それでは、やり方を見ていきましょう。まず両足を大きく広げ(1.2m程度)、右足のつま先を90度外側に向け、左足のつま先はやや右に向けます。上半身は正面に向けたまま背筋を伸ばし、両腕を水平になるように持ち上げます。掌は下に向け指先まで左右に伸ばし、肩甲骨を広げて肩に力が入らないようにしましょう。顔、目線は右に向けます。息を吐きながら右膝を90度になるところまで曲げていき、右膝がかかとの真上にくるようにしましょう。数呼吸このままの姿勢をキープした後、ゆっくり右膝を伸ばし元の姿勢に戻り、左右を入れ替えて反対側も行いましょう。
脚、顔と一緒に体まで片側に向いてしまいがちですが、骨盤はしっかり正面を向けることで、股関節のストレッチを深めます。上半身が傾いてしまわないように、両肩が骨盤の上にあることも確認しましょう。また、伸ばしている方の脚は太腿の筋肉を引き上げるようにし、脚の付け根から踵までを意識して力強く地面を踏むようにすることで、体重が両足に均等に乗るようにします。曲げた方の脚は、膝がしっかり外側(つま先と同じ方向)を向いているように注意しましょう。
それほど難しくなく安全なアーサナですが、体の使い方を意識することでしっかり脚と骨盤周りが鍛えらるのを実感できるでしょう。内臓を刺激する効果もあり、体を目覚めさせてくれるアーサナです。下痢または高血圧の症状がある方は、このアーサナの練習は控えるようにしてください。
今回は『戦士のポーズ2』をご紹介しましたが、実は同じ名前で『戦士のポーズ1』と『戦士のポーズ3』もあります。どれも下半身の強化に効果のあるポーズですが、それに加えて『戦士のポーズ1』は上半身の柔軟性を、『戦士のポーズ3』はバランス感覚を高められるアーサナで、それぞれ少しずつ違った効果があります。ぜひ、いろいろなアーサナを取り入れ、組み合わせながらヨガを楽しんでみましょう。
いよいよ次回は、『馬上でできるヨガ』についてお話ししたいと思いますので、お楽しみに!
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執筆者:市村美歩
2016年、イギリスWrittle University College, Equine Sports Therapy and Rehabilitation(馬のスポーツセラピーとリハビリテーション専攻)の学位取得。2019年インドにて全米ヨガアライアンス認定ヨガ指導者資格取得。
現在は『Miho Ichimura Equine Sports Therapy』で馬のマッサージを中心とした整体、スポーツセラピーのサービスを提供。海外の馬情報もSNSで配信中。