乗馬ヨガコラム 第3回

乗馬ヨガ

第3回『人馬一体』はヨガの最終目的!?

ある程度乗馬を続けていると『人馬一体』という言葉を耳にしたことがあると思います。文字通り人(乗り手)と馬の心が通い合い、まるで一つの体になったような状態のことを指し、ある意味で乗馬をする上での最終目標と言えるでしょう。しかし私はヨガをやるようになって、この言葉がとってもヨガ的だな、と感じるようになりました。それは『Yoga』という言葉がインド古来の言語であるサンスクリット語の『つながる、一体になる』を意味する『Yuj』という言葉に由来するからです。では、ヨガでは一体何をつなげるのでしょうか?

ヨガの考えでは『普段自分が自分と認識している体と心』と『肉体的、物質的な自分を超越する本当の自分』を分けて定義しています。普段私たちが自分だと思っている体や心は様々なものに影響を受けながら、常に変化を続けていますが、一方で物質的なものを超越した変わることのない普遍的なものは『本当の自分』や『魂』、『宇宙』という言葉で表されます。そして、この『本当の自分』とのつながりを感じることで、自分の中に穏やかな幸せや喜びを見出だすのがヨガの最終的な目的となります。

そして、この一体感を感じるためにするのが瞑想です。一般的なヨガのイメージである様々なポーズを取りながら行うエクササイズも呼吸法の実践も、本来は瞑想をするための体と心の準備なのです。経験したことがない方にとっては難しく取っ付きにくいものと感じるかもしれませんが、瞑想は実は誰にでもできるとてもシンプルなものです。瞑想にもいろいろなやり方がありますが、ここでは乗馬にも応用できるマインドフルネス瞑想についてご紹介します。

マインドフルネスとは、今という瞬間に起きている体験に意識が集中している状態、あるいは意識を集中させる行為を指します。集中力の向上やストレス軽減といったその大きな効果により数年前から世界的に注目され耳にすることが多くなりました。マインドフルネス瞑想の最も初歩的なものは前回のコラムでお話しした呼吸を使う方法です。まず楽な状態で座り、骨盤を立て背筋を伸ばし、姿勢を整えます。そして、軽く目を閉じ、呼吸に意識を向けますが、コントロールしようとせず、そのまま呼吸を観察し続けましょう。慣れない方は数分から始め、自分が気持ちいいと感じるところでやめます。途中で違うことに意識が向いてしまっても、それに気づいたらまた意識を呼吸へ戻しましょう。その意識を戻す行為自体が脳のトレーニングとなり徐々に長い時間集中できるようになっていきます。

このような瞑想は日頃から手軽に行うことができますが、『今という瞬間に意識を向ける』という行為は必ずしも瞑想という形をとる必要すらありません。例えば食事をする時、テレビを見たり他の人と話しながら食べるのではなく、食べ物の匂い、色彩、食感に意識を向けよく味わいながら食べれば、それは十分マインドフルな状態と言えるでしょう。

もちろん、乗馬でも同じ事です。一見同じ馬に乗るという行為でも、何を考え何に意識が向いているかで、一鞍の内容は全く違うものとなるでしょう。例えば「今度の競技会であの人に勝ちたい」や「あっちの馬の方が乗りやすそうだな」と馬に乗りながら考えてしまっていたら、マインドフルネスとは言えません。しかし、自分と自分が乗っている馬にしっかり意識を向け、馬の気持ちや体の状態などを感じ取れていれば、それは立派なマインドフルネスであり、馬との『つながり』を感じることができるでしょう。

そして、本当の意味で馬とつながり理解し合あえる感覚、経験を積み重ねることで、『人馬一体』の境地に近づけると私は信じています。

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執筆者:市村美歩
2016年、イギリスWrittle University College, Equine Sports Therapy and Rehabilitation(馬のスポーツセラピーとリハビリテーション専攻)の学位取得。2019年インドにて全米ヨガアライアンス認定ヨガ指導者資格取得。 
現在は『Miho Ichimura Equine Sports Therapy』で馬のマッサージを中心とした整体、スポーツセラピーのサービスを提供。海外の馬情報もSNSで配信中。

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